印象による


 小学校時代の図工の授業で、校舎の中の好きな場所を絵に描くことがあった。私は体育館の二階にあるギャラリーを選んだ。休み時間に友達とよくそこで遊んでいたからだ。
 画版に画用紙を置き、鉛筆で下描きをして、水彩絵の具で色を塗る。四回目くらいの授業で出来上がったので、私は先生に絵を見せに行った。先生は全体的に眺めると、
「ここを塗りなさい」
 と言った。指されたところは、壁の部分だった。

 ギャラリーの壁にはモノクロ印刷された校内新聞が貼られていて、私はそれを鉛筆で描くだけにしていた。遠くから見ると写真も文字もぼやけているし、絵の中でそれはたった二、三センチ程度の四角だったので、私は鉛筆でそれらしく描いて塗るだけでこと足りると思っていたのだ。
「白黒だからこれでいいです」
「いいから、塗ってみなさい」
 画用紙を返されてしまったので、私はしぶしぶギャラリーに戻り、小さな校内新聞に色を塗った。モノクロをどう表現すべきか悩みつつ、黒い絵の具に水を含ませ、白いところと薄く黒いところと真っ黒なところがあるように意識はした。学校で購入する絵筆に繊細な描写ができるような極細サイズはないので、ぼんやりとした出来になってしまったが。もう一度見せに行くと、画用紙を受け取った先生はすぐに苦笑した。
「あぁ、塗るのが面倒くさくなっちゃったんだね」
 諦めたような表情がそこにはあった。私がやる気をなくして、適当に黒く塗り潰してきたのだと思ったらしかった。
「違います、本当にこういう色なんです」
 さっきちゃんと白黒だと伝えたのに、そんな風に言われたことにびっくりして、私は何度も本当だと抗議した。実際に見に行けばすぐ分かることなのに、先生はその場から一歩も動かず、その画用紙を回収した。
「いいよ、いいよ。じゃあ、これで終わりね」

 私は不貞腐れたままその場を離れ、片付けを始めた。赤やピンクや黄色の絵の具で、実際にはありもしない花や蝶を描けば満足なんだろうか。馬鹿みたいと思っていた。
 だけど私は腹を立てつつも、先生からこんな態度を取られた理由を何となく察していた。私はこの先生のことが好きではなかった。一対一では当たり障りのない受け答えをするが、友達と一緒にいる時は気が大きくなって、生意気な態度を取ることもあった。
 だからこの時も、反抗的な態度を取ったと思われたのだろう。きっと私ではない誰かが同じことをしたら、あんなことは言わなかったんだろうな。絵の具で汚れたパレットを洗いながら、私はそんなことを考えていた。





初出:詩誌「乾河」89号(2020年10月1日発行)




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